古民家で“パタン”…誰もいない家で鳴った音の正体は?

古民家の管理をしていると、静かすぎる空間が逆に怖く感じることがあります。
和歌山の山あいを走り回る日々のなかで、先日、久しぶりに背筋がぞわっとした出来事がありました。
それは、誰もいないはずの古民家で起きた“パタン”という音。
ただの物音…では済まされない妙な気配。
今回は、そんな少しヒヤッとして、最後は温かくなる古民家エピソードをご紹介します。
長年放置された古民家で片付け中に起きた異変
その家は築80年以上。
長い間メンテナンスがされておらず、私は管理の依頼を受けて片付け作業をしていました。
小屋裏のホコリっぽい空気、重く沈む床、薄暗い廊下――。
古民家特有の静寂が、作業中の私をさらに集中させていました。
そんな時でした。
「パタン」
突然、家の奥から扉が閉まる音がしたのです。
私は手に持っていたほうきを落としそうになりました。
「ちょ…今の音、何や?」
家には私一人。
風も、動物も、誰かの気配もない。
それなのに、確かに“何か”が動いた。
音のした部屋へ向かうと…そこに広がっていた違和感

恐る恐る音のした方向へ歩いていくと、
古いふすまが少し開いた状態で止まっていました。
しかし、部屋の中には誰もいない。
私は心臓の鼓動を感じながら、ふすまに手を伸ばしました。
すると、ふすまは少しだけ勝手に動き、また「パタン」と閉まりました。
「……こわっ」
思わず声が漏れました。
でも次の瞬間、私は“あること”に気付きました。
ふすまを動かしていたのは“家の歪み”だった
ふすまをよく見ると、レールが傾いている。
床に置いた水平器(現場でよく使う小型のもの)を取り出すと、案の定、床が数ミリ沈んでいました。
「なるほどな…」
長年の湿気で柱がわずかに歪み、
その角度が“自然に動くふすま”を生み出していたのです。
私が歩いた振動や荷物を動かした時の揺れが引き金となり、
ふすまがゆっくり動いて「パタン」と閉まる。
分かってしまえば怖くない。
むしろ古民家らしい現象です。
棚の奥から見つかった“日記帳”…ふすま事件は昔から?
ふすまのことが気になり、さらに部屋の中を調べていると、
古い棚の奥から、手紙やノートが入った箱が出てきました。
その中には、かつて住んでいた女性の日記帳が。
ページをめくると、そこにひとつの記述がありました。
「この家は、ふすまがよく勝手に閉まる。
きっと古くなって、私の気配に敏感になったんやろう。」
思わず吹き出しそうになりました。
どうやら、ふすまの“癖”は昔からだったようです。
人が暮らしていた頃も、
ふすまは同じように「パタン」と音を立てていた。
その事実を知ると、
先ほどは怖く感じた音も、なんだか古民家が呼吸しているように思えてきました。
古民家は生き物のように時間を刻む
片付け作業を終えて外に出ると、
夕日が瓦屋根にオレンジ色の光を落とし、家全体を包み込んでいました。
私は振り返りながら、そっと呟きました。
「家って、生き物みたいなもんやな…」
古民家は完璧な建物ではありません。
柱は歪み、床はきしみ、ふすまは勝手に動く。
でもそれこそが、
長く人の暮らしを支えてきた証だと思うのです。
その小さな変化や癖を感じ取るたびに、
私はこの仕事の面白さを改めて実感します。
おわりに:古民家には“微かな音に宿る物語”がある
今回の“ふすま事件”は少し肝が冷えましたが、
最後には「そういうことか」と笑える、古民家ならではの出来事でした。
ふすまの音ひとつにも、
そこに暮らしていた人々の歴史が宿っている。
古民家の調査は、
過去の記憶をひとつずつ読み解くようなもの。
こうした瞬間に出会えるからこそ、
私は今日も古民家の管理に、少しワクワクしながら向かうのです。


