古民家の“つむじ風”事件――閉め切った座敷で踊っていたもの

古民家を扱う仕事をしていると、「え?どういうこと?」と首をかしげる相談が舞い込むことがあります。
和歌山の山あいで古民家を見て回るのが日常の私ですが、先日、とても印象に残る出来事がありました。
それは、静かな座敷で起きた“小さな事件”でした。
近所の方からの相談「座敷で何かが動いてる」
ある日の午前中、古民家の近所に住む方から電話がありました。
「なぁ、あんたとこが管理してる空き家やろ? 座敷でなんか動いとる気がするんよ」
動く?
誰も住んでいないはずの家で?
動物でも入り込んだのか、はたまた怖い話の類か…
胸にモヤっとした不安を抱えつつ、私は現場へ向かいました。
古民家に到着すると、外観は相変わらず風情があるものの、どこか寂しげ。
玄関を開けると、湿った空気と木の匂いがふわりと鼻をくすぐります。
座敷で舞っていた“白い影”の正体

問題の座敷の前に立つと、ふすま越しに動きが見えました。
「まさか本当に何かいるんか…?」と慎重にふすまを開けると――
白い影がフワッ……フワッ……と宙を舞っていたのです。
「うわっ…!」
思わず声が漏れました。
懐中電灯で照らしてみると、白い影の正体は 破れた障子紙の切れ端でした。
古い障子がところどころ破れており、そこから室内に流れ込む風が切れ端を持ち上げていたのです。
でもその動き方が絶妙で、本当に誰かが踊るように“舞っている”。
思わず笑いがこみ上げてきました。
障子の跡に残った、かすかな“家族の記憶”
さらに障子をよく見ると、
昔の子どもが描いたらしいクレヨンの落書きや、
何かの歌詞を書いたメモの跡がうっすら残っていました。
この家にも、こんなふうに賑やかな時代があったんだな…
そう思うと、風に舞う和紙さえも、なんだか懐かしい家族の姿のように感じてきます。
近所の方にも状況を説明し安心してもらい、
後日、私は障子の張り替え作業をお手伝いしました。
新しい和紙を張った瞬間、空気が変わる“古民家ならではの楽しさ”
障子の張り替えは、古民家の手入れの中でも特に好きな作業です。
新しい和紙をピンと張り、木枠に指が触れると、
その瞬間、家に新しい呼吸が吹き込まれたような気がします。
薄暗かった座敷が、外の光を柔らかく取り込み、
「これでまた誰かを迎えられる家になるんやな」と思わず嬉しくなりました。
張り替えが終わり、座敷を出ようと振り返ると、
先ほどまで踊っていた和紙の切れ端は静かに畳の上に落ちていました。
まるで「これで安心したわ」と言っているように。
おわりに:古民家には、静かに息づく“家族の物語”が残っている
今回の“つむじ風事件”は、怖いどころか、
古民家が持つぬくもりや、そこに住んだ家族の記憶を改めて感じるきっかけになりました。
古民家の仕事をしていると、こうした「ちょっと不思議で、ちょっと温かいエピソード」がたまに起こります。
そして私はいつも思うのです。
古民家はただ古いだけではない。
そこには、静かに眠る“物語”が残っている。
そんな物語に触れるたびに、この仕事をしていて良かったとしみじみ感じるのでした。


